1. 建設業に専用の最低賃金はあるのか
「建設業には建設業の最低賃金があるのではないか」——そう考えて調べ始めた方は多いと思う。建設工事を行う建設業については、事業場に適用される地域別最低賃金を確認するのが基本だ。
日本の最低賃金には2種類ある。都道府県ごとに決まる地域別最低賃金と、特定の産業について都道府県ごとに決まる特定(産業別)最低賃金だ。後者は業種を限って上乗せの水準を定めるもので、鉄鋼業や自動車小売業などに設定されている。
厚生労働省の特定最低賃金の全国一覧を、47都道府県すべてについて確認した。建設工事を行う建設業を対象とする特定最低賃金は掲載されていない(2026年9月10日確認)。一方で、建設機械製造業や建築用金属製品製造業など、建設に関連する製造業の特定最低賃金は掲載されている。名称に「建設」「建築」が含まれていても、建設工事を行う業種とは別なので混同しないようにしたい。
地域別最低賃金は、産業や職種にかかわりなく、都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に適用されます(パートタイマー、アルバイト、臨時、嘱託などの雇用形態や呼称の如何を問わず、すべての労働者に適用されます。)。
「うちは日給だから関係ない」「見習いだから別」という話ではない。雇用形態も呼び方も問わず、事業場で働く人すべてにかかる。日給で払っていても、常用単価で払っていても、時間額に換算して最低賃金と比べる必要がある。その計算方法は3章以降で具体的に見ていく。
地域別最低賃金と特定最低賃金の両方が適用される場合は、高いほうの額が適用される。建設会社という会社名や看板だけで判断せず、その事業場で営む産業に応じて確認することが大切だ。
2. 自分の県はいつ、いくらになるのか|「10月から」ではない
毎年秋になると「最低賃金が10月から上がる」と報じられる。ただし採用の実務では、この理解のままだと足をすくわれる。発効日は都道府県ごとに違うからだ。
厚生労働省が公表している令和7年度の全国一覧で、47都道府県の発効日を確認した。実際には次のように散らばっている。
| 発効日(令和7年度の実績) | 該当する県の例 |
|---|---|
| 令和7年10月1日 | 栃木 |
| 令和7年10月3日〜4日 | 東京・千葉・長野・北海道・宮城・神奈川・兵庫・鳥取 |
| 令和7年11月1日 | 埼玉・静岡・広島・和歌山・鹿児島 |
| 令和7年12月1日 | 岩手・山梨・岡山・愛媛・高知・長崎・沖縄 |
| 令和8年1月1日 | 福島・徳島・熊本・大分 |
| 令和8年3月1日 | 群馬 |
| 令和8年3月31日 | 秋田 |
同じ年度の改定でも、栃木と秋田では半年近い開きがある。「10月から上がるらしい」と聞いて自社の求人を直したものの、実は自分の県の発効日は12月だった、あるいは逆に「まだ先だろう」と構えていたら10月初旬に発効していた、ということが普通に起こる。
この発効日は、後述する助成金の申請期限にも直結する。自分の県がいつなのかは、一次情報で確認しておきたい。
令和8年度はいくらになるのか
令和8年度は、中央最低賃金審議会が令和8年7月28日に引上げの目安を答申し、その後、各都道府県で答申・改正決定が進んでいる。まず、7月に示された目安を確認しよう。
仮に目安どおりに各都道府県で引上げが行われた場合の全国加重平均は1,176円となります
上昇額は55円(昨年度は66円)、引上げ率は4.9%(昨年度は6.3%)。ランク別の目安額は、Aランク54円、Bランク56円、Cランク56円。Aランクは埼玉・千葉・東京・神奈川・愛知・大阪の6都府県。
ここで大事なのは、これはあくまで「目安」であって、各県の確定額ではないということだ。目安を参考にしながら、各都道府県の地方最低賃金審議会が調査審議して答申を行い、それを受けて各都道府県労働局長が決定する。
2026年9月10日に確認した厚生労働省の「地域別最低賃金の全国一覧」は令和7年度分だが、別の「令和8年度 地域別最低賃金 答申状況」には各都道府県の答申額と発効予定日が掲載されている。労働局による改正決定も公表されており、全国一覧の更新を待つだけでは確認が遅れる。答申状況の発効日は変更の可能性があるため、実際に適用する額と日は各労働局の改正決定で確かめたい。
参考までに、令和7年度の改定後の主な水準は次のとおり。全国加重平均は1,121円(改定前1,055円・上昇額66円・引上げ率6.3%)で、最も高いのが東京の1,226円、次いで神奈川1,225円、大阪1,177円、埼玉1,141円、千葉と愛知が1,140円。最も低いのは高知・宮崎・沖縄の1,023円だった。
1. 厚生労働省の「地域別最低賃金の全国一覧」を開く(本記事末尾の出典欄にリンクがある)
2. 自分の県の「最低賃金時間額」と「発効日」を見る。掲載年度も確認する
3. 改定年度の一覧がなければ「令和8年度 地域別最低賃金 答申状況」を参照し、自分の県の労働局で答申か改正決定かを確認する
4. 改正決定の額と発効日を控え、求人票と給与計算の見直しを進める。給与の締め日ではなく発効日から適用される
3. 日給1万円は最低賃金を満たしているのか
建設業でいちばん多い疑問がこれだと思う。時間給で払っている会社なら比べるだけで済むが、日給制だとひと手間かかる。
計算方法は感覚ではなく、省令に書かれている。
日によつて定められた賃金については、その金額を一日の所定労働時間数(日によつて所定労働時間数が異なる場合には、一週間における一日平均所定労働時間数)で除した金額
厚生労働省もこの式を「最低賃金のチェック方法」として示している。
日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
つまり「日給1万円は足りているか」という問いには、それだけでは答えられない。1日の所定労働時間が何時間かで答えが変わる。
| 対象となる日給 | 1日の所定労働時間 | 時間額に直すと | 仮に最低賃金1,200円なら |
|---|---|---|---|
| 10,000円 | 8時間 | 1,250円 | 満たしている |
| 12,000円 | 8時間 | 1,500円 | 満たしている |
ここで注意したいのが、「所定労働時間」であって「現場にいる時間」ではないという点だ。所定労働時間とは、就業規則や労働契約で定めた働く時間のこと。7時集合・18時終業という現場でも、所定労働時間を8時間と定め、残りを休憩と時間外労働として扱っているなら、最低賃金の判定に使うのは8時間のほうになる。
ただしこれは「現場にいる時間が長くても関係ない」という意味ではない。所定労働時間を超えて働いた分の賃金も支払う必要がある。法定労働時間を超える労働、法定休日の労働、深夜労働には、それぞれ法定の割増賃金が必要だ。一方、所定時間を超えても法定時間内であれば、契約や就業規則などに割増の定めがない限り、通常の賃金を支払えばよい。この違いと、最低賃金の計算から除く賃金の範囲は分けて確認する。
「日給1万5千円には残業代も込み」という払い方をしている会社は少なくない。しかし所定労働時間を超える労働に対して支払われる賃金は、最低賃金の計算に算入されない(最低賃金法施行規則1条2項1号)。
つまり日給1万5千円のうち、残業代に相当する部分は差し引いたうえで、残りを所定労働時間で割って判定することになる。「日給が高いから大丈夫」とは限らない。
所定労働時間を短く定めても、実際に働いた時間への支払いはなくならない。所定を超えた労働の賃金は最低賃金の計算から除き、法定時間外などに当たる分には割増賃金も支払う。労働基準法37条1項では、1か月の時間外労働が60時間を超えた部分の割増率を5割以上としている。労働時間と賃金の内訳を一緒に確認することが必要だ。
日によって所定労働時間が違う場合
現場によって終わる時間が違う、という会社もある。この場合、省令は「一週間における一日平均所定労働時間数」で割ると定めている。日ごとにばらつくなら、週の所定労働時間を出して日数で割った平均を使う、という考え方だ。
なお月給制の場合は「月給÷1箇月平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)」で判定する。日給と月給など複数の形が組み合わさっている場合は、それぞれ時間額に換算して合計したものを最低賃金額と比べる。
4. 「常用」と呼ぶ支払い・出来高払いはどう分けるか
建設業で使う「常用単価」という呼び方だけでは、最低賃金の計算方法は決まらない。雇用した人の賃金を日額で定めているなら、3章の日給の式を使う。出来高払いなど、成果に応じて賃金を定める場合には、次の省令の式を使う。
出来高払制その他の請負制によつて定められた賃金については、当該賃金算定期間(賃金締切日がある場合には、賃金締切期間。以下この号において同じ。)において出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金の総額を、当該賃金算定期間において出来高払制その他の請負制によつて労働した総労働時間数で除した金額
出来高払制その他の請負制で定めた賃金は、その賃金算定期間の対象賃金総額を、同じ方式で働いた総労働時間数で割る。最低賃金の対象から除く賃金は5章で確認する。日給や月給なども組み合わさっていれば、それぞれ時間額に換算して合計した額を比べる。
ここでひとつ整理しておきたいのは、「請負契約で外注しているのか、雇っているのか」で話がまったく変わるという点だ。最低賃金法が適用されるのは労働者、つまり雇っている人に対してだ。一人親方に工事の一部を請け負ってもらう本来の外注であれば、そもそも最低賃金の話にはならない。
問題になるのは、契約書の形は請負でも、実態としてこちらが指示して働かせている場合だ。実態が雇用と判断されれば、最低賃金法も労働基準法もかかってくる。「常用で来てもらっている」という言い方をする関係は、この線の上にあることが多い。判断は実際の働き方に即して行われるため、迷う場合は所轄の労働基準監督署に確認するのが確実だ。
なお、現場の作業職について有料の人材紹介や労働者派遣が使えない理由と、応援・外注が請負として認められる条件については、建設業で人材紹介が禁止される理由の記事で条文をもとに整理している。
5. どの手当が計算に入り、どれが入らないのか
最低賃金と比べるのは、実際に払っている賃金の全額ではない。厚生労働省は「最低賃金の対象となる賃金は、毎月支払われる基本的な賃金です」としたうえで、次のものを除外すると示している。
(1) 臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
(2) 1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
(3) 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
(4) 所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
(5) 午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
(6) 精皆勤手当、通勤手当及び家族手当
建設業の給与明細に当てはめると、次のような整理になる。
| よくある項目 | 最低賃金の計算に | 理由 |
|---|---|---|
| 基本給・日給の本体 | 入る | 毎月支払われる基本的な賃金にあたる |
| 皆勤手当 | 入らない | 除外項目(6)に精皆勤手当として明示されている |
| 通勤手当・家族手当 | 入らない | 同じく除外項目(6) |
| 残業代・休日出勤の賃金 | 入らない | 除外項目(3)(4) |
| 深夜の割増部分 | 入らない | 除外項目(5)。通常の労働時間の賃金を超える割増部分を除外 |
| 賞与・決算賞与 | 入らない | 除外項目(2)。1か月を超える期間ごとの支払い |
| 現場手当・資格手当 | 個別に判断 | 上の6項目に当たらなければ算入される。毎月固定で支払っているものか、臨時のものかで扱いが変わる |
注意したいのは皆勤手当と通勤手当だ。これらを含めた総支給額で計算すると足りているように見えても、除外して計算すると下回っているというケースがあり得る。日給に通勤分を上乗せしている運用は建設業に多いので、確認しておきたい。
現場手当や資格手当は、名前だけで算入・除外を決めない。何に対して支払う手当かを確認し、上の除外項目に当たるかどうかで判断する。例えば、定額でも残業代に相当する部分は除外される。自社の手当の性質に迷う場合は、労働基準監督署に確認したい。
6. 改定をまたぐ求人票|給与欄と適用日をどう直すか
ここからが採用の実務に直結する話になる。求人を出したまま最低賃金の改定日を迎えると、求人票に書いた賃金がその日から最低賃金を下回る、という事態が起こり得る。
確認するのは、求人情報の表示と、実際に働く人への支払いの両方だ。表示や募集には職業安定法、賃金の支払いには最低賃金法の規定がある。「まだ雇っていないから表示はそのままでよい」とは考えず、次の点を確認したい。
その1|募集情報は正確かつ最新に保つ義務がある
労働者の募集を行う者及び募集受託者は、この法律に基づく業務に関して広告等により労働者の募集に関する情報その他厚生労働省令で定める情報を提供するときは、正確かつ最新の内容に保たなければならない。
求人サイトに出したままの原稿も、この「広告等により提供する情報」にあたる。同条1項は虚偽の表示や誤解を生じさせる表示を禁じている。さらに同法65条は、虚偽の広告・条件による募集などを罰則の対象としている。採用時に提示する賃金や、その適用開始日と食い違う表示を残さないようにしたい。
その2|ハローワークは受理しないことができる
公共職業安定所、特定地方公共団体及び職業紹介事業者は、求人の申込みは全て受理しなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する求人の申込みは受理しないことができる。
一 その内容が法令に違反する求人の申込み
二 その内容である賃金、労働時間その他の労働条件が通常の労働条件と比べて著しく不適当であると認められる求人の申込み
最低賃金を下回る賃金を提示した求人は、この1号に該当し得る。求人が受け付けられなければ、そもそも募集が動かない。
その3|実際に雇えば最低賃金法の問題になる
適用される最低賃金を下回る額で契約しても、下回る賃金を定めた部分は無効となり、最低賃金額で定めたものとみなされる。その額を下回って支払えば罰則の対象にもなる。詳しくは8章で確認する。
給与欄は、総額と内訳を分けて直す
例えば、給与欄に「日給・手当・残業代込みの総額」だけを書いているなら、まず内訳を確認する。総額だけでは、応募者が基本の賃金を読み取れず、掲載する側も最低賃金と比べる額を取り違えやすい。日給制の求人なら、次のように項目を分けると確認しやすくなる。
| 給与欄の項目 | 記載・確認する内容 |
|---|---|
| 基本日給 | 所定労働時間に対応する日額を記載する。固定残業代を含む総額と区別する |
| 定額の手当 | 現場手当・資格手当などの額、支給条件、日額か月額かを分けて記載する |
| 固定残業代を設ける場合 | 基本給と分けて金額と対応する労働時間数を記載し、算定対象となる時間外・休日・深夜労働を明らかにする |
| 固定残業代を超える分 | 対応する時間数を超える労働分など、法定の計算額に対して不足する割増賃金を追加で支払う旨を記載する |
| その他の手当 | 通勤手当などの支給条件と額を記載する。最低賃金の計算に入るかは、5章の除外項目で別に確認する |
| 所定労働時間・試用期間 | 始業・終業、休憩、所定労働時間を確認する。試用期間中に給与条件が異なるなら、その条件も明示する |
固定残業代を採用する場合、厚生労働省は固定残業代を除く基本給、固定残業代の時間数と金額、超過分の追加支給を明示するよう案内している。内訳を整えたら、最低賃金の対象となる賃金だけを時間額に換算する。日給と月額手当が組み合わさる場合は、それぞれの式で換算してから合計する。
掲載日と、新しい給与を適用する日を分ける
求人をいつ出したかと、どの日から新しい賃金を適用するかは別の話だ。大阪労働局も、賃金算定期間の途中に発効日がある場合でも、その日から改定後の最低賃金額以上の支払いが必要と案内している。給与の締め日や翌月の掲載更新まで待てるわけではない。
| 確認する日付 | 求人と給与で確認すること |
|---|---|
| 求人の掲載・更新日 | 各媒体にどの給与条件が載っているかを確認する。更新日だけを直さず、金額・内訳・労働時間も照合する |
| 新しい給与の適用開始日 | 会社が決めた新しい給与をいつから適用するか明らかにする。改定前後の条件を併記するなら、それぞれの適用期間も示す |
| 最低賃金の発効日 | 事業場に適用される改正決定の額と日付を確認し、その日以降の賃金が下回らないようにする |
1. 労働局の発表で、自分の県の改正決定額と発効日を確認する
2. 求人サイト・自社サイト・ハローワーク・紙媒体など、掲載中の求人を並べる
3. 基本給・手当・固定残業代と所定労働時間を確認し、対象となる賃金を時間額に換算する。給与に幅がある場合は下限額、試用期間中の給与も確認する
4. 下回る条件は見直し、給与への反映と各媒体の修正を進める。条件を確定できない求人は掲載を止める
5. 修正後の掲載画面を開き、金額・内訳・適用開始日を照合する。既に応募している人に提示した条件を変える場合は、その変更も明示する
求人原稿の直し方そのものについては応募が集まる求人原稿の記事で、媒体の棚卸しについては建設業の求人媒体一覧の記事で整理している。
賃金を上げるのは痛みを伴う判断だが、採用の面から見ると悪い話ばかりではない。求人票の金額は応募者が最初に見る数字で、地域の他社と並んだときの見え方を左右する。改定に合わせて上げるなら、その金額を求人原稿でどう見せるかまで含めて考えたい。
7. 外国人材・見習い・派遣で働く人はどうなるのか
技能実習生・特定技能の外国人
地域別最低賃金は、産業や職種にかかわりなく、都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に適用される。国籍によって適用が変わるという規定はない。厚生労働省も技能実習生向けの労働条件確保のパンフレットで、最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないこと、下回る賃金で合意して契約しても無効になることを明記している。
建設分野の特定技能については、これに加えて国土交通省の告示による認定要件がかかる。
1号特定技能外国人に対し、同等の技能を有する日本人と同等額以上の報酬を安定的に支払い、技能の習熟に応じて昇給を行うこと
根拠は平成31年国土交通省告示第357号。最低賃金を満たしていればよいという水準ではなく、同等の技能を持つ日本人と同等額以上であることが受入計画の認定要件になっている。
ここで基準になっているのは、最低賃金を満たしているかどうかではない。同じ技能を持つ日本人といくら違うか、という水準で見られる。最低賃金をクリアしていれば足りる、という設計にはなっていない。
見習い・試用期間中の人
「見習いだから最低賃金より低くてもよい」という扱いは、原則としてできない。ただし例外の仕組みはある。
使用者が厚生労働省令で定めるところにより都道府県労働局長の許可を受けたときは、次に掲げる労働者については、当該最低賃金において定める最低賃金額から当該最低賃金額に労働能力その他の事情を考慮して厚生労働省令で定める率を乗じて得た額を減額した額により第四条の規定を適用する。
一 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者
二 試の使用期間中の者
重要なのは「都道府県労働局長の許可を受けたとき」という条件だ。自社の判断で減額できる制度ではない。厚生労働省は手続きについて「最低賃金の減額の特例許可申請書(所定様式)2通を作成し、所轄の労働基準監督署長を経由して都道府県労働局長に提出してください」と案内している。許可を得ないまま減額して払えば、通常どおりの最低賃金法違反になる。
派遣で来ている人
建設現場の作業そのものは労働者派遣が禁止されているが、施工管理や事務など建設業務に当たらない職種では派遣を受け入れている会社もある。この場合に適用される最低賃金について、厚生労働省は次のように説明している。
派遣労働者には、派遣先の最低賃金が適用されますので、派遣労働者又は派遣元の使用者は、派遣先の事業場に適用される最低賃金を把握しておく必要があります。
派遣元の会社がどこにあるかではなく、働いている現場の県の最低賃金で見る。県をまたいで人が動く建設業では、押さえておきたい点だ。
8. 下回っていたら何が起きるのか
計算してみて下回っていた場合、何が起きるのか。順番に見ていく。
契約は自動的に最低賃金額に引き上がる
最低賃金の適用を受ける労働者と使用者との間の労働契約で最低賃金額に達しない賃金を定めるものは、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、最低賃金と同様の定をしたものとみなす。
ここが最低賃金法の効き方の核心だ。本人が納得して契約していても、その部分は無効になる。そして無効になった部分は、最低賃金と同じ定めをしたものとみなされる。つまり契約書に何と書いてあっても、法律上は最低賃金額で契約したことになり、その差額を支払う義務が残る。
罰則
第四条第一項の規定に違反した者(地域別最低賃金及び船員に適用される特定最低賃金に係るものに限る。)は、五十万円以下の罰金に処する。
地域別最低賃金を下回る支払いは、50万円以下の罰金の対象になる。また法人の従業者が違反行為をしたときは、行為者を罰するほか法人にも罰金刑が科される(同法42条)。
あわせて、最低賃金の概要を作業場の見やすい場所に掲示するなどして労働者に周知させる義務もある(同法8条)。これに違反した場合は30万円以下の罰金と定められている(同法41条1号)。
複数の最低賃金がかかる場合
地域別最低賃金と特定最低賃金の両方が適用される場合は、高いほうが適用される(同法6条1項)。1章で見たとおり、建設工事を行う建設業と、特定最低賃金が定められた建設関連の製造業は別だ。事業場で営む産業を確認したうえで判断する。
9. 賃金を上げる原資をどう作るか
最低賃金が上がれば人件費が上がる。とくに人数を抱えている会社ほど影響は大きい。ここで使える公的な制度がある。
業務改善助成金は、生産性向上のための設備投資などを行い、事業場内の最も低い時間給を一定額以上引き上げる場合に、その設備投資などの費用の一部を助成する制度だ。賃金そのものを補填する制度ではない。厚生労働省は制度の趣旨を次のように説明している。
業務改善助成金は、生産性向上に資する設備投資等(機械設備導入やコンサルティングなど)を行うとともに、事業場内最低賃金を一定額(各コースに定める金額)以上引き上げた場合、その設備投資などにかかった費用の一部を助成するものです。
ここで押さえておきたいのが申請期限だ。厚生労働省は令和8年度分について次のように告知している。
令和8年度業務改善助成金の受付が開始しました。
申請期間は令和8年9月1日~申請事業場の都道府県において適用される地域別最低賃金の発効日の前日又は同年11月30日のいずれか早い日となります。
つまり締切が県によって違う。自分の県の発効日が10月上旬なら、その前日までしか申請できない。2章で発効日を確認しておくべきだと書いたのは、この期限にも関わるからだ。
制度の設計上、注意点も2つある。第一に、賃金の引き上げも設備投資もこれから実施するものが対象で、すでに実施済みのものは助成されない。第二に、交付決定を受けてから計画どおりに進め、結果を報告してはじめて支給される。先に払って後から申請する形ではない。
また、この制度でいう「事業場内最低賃金」は事業場で最も低い時間給を指し、その計算方法は最低賃金法4条および同法施行規則1条・2条に基づいて算定されると厚生労働省は説明している。3章から5章で見た計算の考え方は、そのままこの助成金の判定にも使うことになる。
建設業だけが使える助成金も別にある。若手や女性を試行雇用したとき、採用した人が定着したとき、建設キャリアアップシステムを活用したときなど、採用と育成の場面で使えるものが用意されている。詳しくは建設業の採用に使える助成金・補助金一覧の記事にまとめている。
10. ゴリラ採用の考え方
ゴリラ採用は、建設業に完全特化した採用代行(RPO)だ。求人原稿づくりから媒体の運用、応募が来たあとの対応までをまるごと代行している。
最低賃金の改定は、経理や労務の話として処理されがちだ。ただ実際には、求人票に書いた金額が改定日から古くなるという意味で、採用の話でもある。出しっぱなしの求人が地域の最低水準を下回ったまま並んでいれば、法令の問題である前に、応募者から見て選ばれない求人になる。
賃金を上げるなら、その金額を求人原稿でどう見せるかまで含めて設計したい。同じ金額でも、幅の書き方、手当の見せ方、仕事の具体と休日の実態が書かれているかどうかで、応募の集まり方は変わる。
自分の県の発効日がいつで、今出している求人のどれを直す必要があるのか。今の求人と応募数をお持ちいただければ、無料相談で一緒に整理する。